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千葉地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決 1960年8月11日

原告 田寿郎 外二名

被告 山田町・山田町長 外一名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告らは「被告山田町長鎌形精が昭和三三年一一月一〇日付で被告山田町と被告阿部建設株式会社との間に締結した役場庁舎建設工事請負契約が無効であることを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決を求め、請求原因として、

一、原告らは何れも被告山田町の住民である。

二、被告山田町長鎌形精は、同町役場庁舎建設工事の請負につき、昭和三三年一一月四日同役場府馬出張所において、これを被告会社外訴外四会社の指名競争入札に付し、落札者被告会社と落札価格六五八万円で仮契約を結び、同月六日町議会臨時会において、これに対する同意の議決を得、被告山田町と被告会社との間に同月一〇日付で右工事請負契約を締結した。しかしながら右契約は次の理由により違法である。すなわち

三、地方自治法二四三条一項によれば、普通地方公共団体は、法律又はこれに基く政令に特別の定があるとき、臨時急施を要するとき、入札の価格が入札に要する経費に比較して得失相償わないとき、又は条例で定める場合に該当するときを除いては、工事の請負につき競争入札に付さなければならず、しかして自治法同条項の本文及び但書並びに会計法二九条及び予算決算会計令九二条の統一的解釈並びに指名競争入札に伴う情実の危険性排除という実質的要請よりすれば、この競争入札とは一般競争入札のことを言うものと解すべきである。又当時の山田町契約条例(昭和二九年山田村条例八号)二条乃至四条によれば、予定価格が二〇万円を超えない工事を請負させるときその他一定のときには指名競争入札に付することができ、その一定の事由に当らない限り全て一般競争入札に付さなければならないものと規定されている。ところで本件契約においては右法令及び条例に定める除外事由が全く存せず、したがつて一般競争入札に付すべき場合であるのに拘らず、これを指名競争入札に付したものであるから、右契約は地方自治法二条一四項及び一五項により無効である。

四、又本件の如き請負契約の締結に当つては、自治法九六条一項九号、二四三条二項及び山田町契約条例六条により町議会の議決で出席議員の三分の二以上の同意を得なければならないところ、本件においてはこの同意の議決をした前記第二項記載の町議会臨時会の招集につき、被告町長は適式の告示を行つていない。これは自治法一〇一条二項及び一〇二条四項に違反した違法の招集であり、右議会は適式に成立していないから本件契約に同意を与えた右議決は法律上何らの効力を発生していないのである。よつて被告町長の本件請負契約の締結には議会の適式な議決による同意を得なかつた違法がある。したがつて被告町と被告会社との間の本件請負契約は、この点においても自治法二条一四項及び一五項により当然無効であると言わなければならない。

五、そこで前記のとおり被告町の住民である原告らは、右第三項及び第四項に記載の違法な契約締結の事実があることを確認したので、昭和三三年一一月一四日自治法二四三条の二第一項により被告町の監査委員に対し、速かに監査を行い右契約の履行禁止の措置を講ずべきことを請求した。ところが右請求につき監査委員は監査を行なつた結果請求に係る違法事実がないと認める旨同年一二月二日付書面を以て原告らに通知してきた。

六、しかし原告らはとうてい右監査委員の決定に服することができないので、自治法二四三条の二第四項により被告町長の違法行為による本件請負契約の無効を求めるため、本訴に及んだ。

と述べ、被告らの主張二(本件指名競争入札が改正条例によりなされたとの主張)に対し、

昭和三〇年一二月二六日の町議会において被告町の契約条例が被告ら主張のように改正されたことは否認する。すなわち右改正の議決があつたか否かは明らかでないのみならず、そのような改正は全く公布された事実がなく、被告町にはその公布原本も存在していない。しかして被告らが右条例の改正された時と主張する昭和三〇年一二月二六日当時の自治法二四三条一項にはその但書末尾として「……又は議会の同意を得たときはこの限りでない」と規定されてあつて議会の同意さえあれば指名競争入札に付することができたのである。その後昭和三一年六月一二日法律一四七号(地方自治法の一部を改正する法律)で右二四三条一項但書末尾の文字は削除されその代りに「……又は条例で定める場合に該当するときはこの限りでない」と規定され、右改正の規定は同年九月一日から施行された。したがつて被告ら主張の昭和三〇年一二月二六日当時においては何ら条例改正の必要がなかつたのである。この点から見ても右日時に山田町契約条例が改正された事実のなかつたことが明らかである。なお被告らの主張する改正条項について、山田町契約条例にはその施行の日が附則その他の箇所に明記されていない。これまた当時改正のなかつたこと及びその公布のなかつたことを示しているものである。

と述べた。

(立証省略)

被告ら訴訟代理人は、本案前の申立として「本件訴のうち被告町長に対する訴を却下する」との判決を求め、その理由として「原告らの本訴請求は、その請求の趣旨によれば被告町と被告会社との間に締結された請負契約の無効確認を求めるものであるところ、被告町長は右契約の当事者ではなくて単なる第三者にすぎないから町長に対する本件訴はその確認の利益を欠いて不適法である」と述べ、

本案につき、主文同旨の判決を求め、答弁として「請求原因事実一を認め、二のうち工事請負契約締結の時及び右契約が違法であるとの点を否認してその余の事実を認める。右契約締結の日は昭和三三年一一月六日である。三は否認する。本件請負契約は山田町契約条例三条七号に基き指名競争入札に付されて締結されたものであつて、何ら違法はない。四のうち、山田町契約条例六条の規定内容及び同意の議決のあつた点を認め、その余は否認する。五のうち被告町長のした契約の締結が違法であるとの点を否認し、その余を認める」と述べ、被告らの主張として、

一、本件契約には何ら違法はない。すなわち、

二、(指名競争入札が違法であるとの原告ら主張に対し)被告町の条例としてもと原告ら主張のような契約条例があつたことは認めるが、右条例は昭和三〇年一二月二六日の町議会において改正され、本件入札は右改正後の条例によつてなされたものである。

すなわち、右改正により同条例三条一項に第七号が追加され、「契約の性質又は目的により一般競争入札に付することが不利なとき又は一般競争を許さないときには指名競争入札に付しうる」ものとされた。そして右改正条例は即日(昭和三〇年一二月二六日)公布施行された。しかして右条例が改正されるに至つたいきさつは、当時山倉中学校校舎の増築を百数十万円の予算で工事することになつたが、その入札を指名競争でやりたいとの町理事者及び議会議員の希望があつたためである。その結果同年一二月三〇日及び昭和三一年一月九日の両日に代表工事委員会を開催して請負業者五社を選定し、同年一月八日入札し、同日被告会社が一六三万円で入札し、同年一月二三日の町議会で出席議員二一名の全員一致で被告町と被告会社との請負契約承認の議決がされたものである。しかして原告田寿郎は昭和三〇年一月から三一年五月下旬まで被告町の助役をしていたので、右契約承認の議会において助役として出席のうえ種々の発言をしているが、特に請負業者五社を選定して指名競争入札に付した経緯を「助役経過報告」として説明しているのである。

爾来昭和三三年一〇月に施行された第一山倉小学校講堂の建設工事までの約三年間に、十数回の大工事(請負金額約二三〇〇万円)の請負契約が締結されたが、その契約は全て右改正条例の条項に該当するものとして五、六の有力請負業者の指名競争入札に付してなされている。その間原告田は、前記のように昭和三一年五月下旬までは山田町助役をしていたが、その後同年一一月下旬から三三年二月下旬までは山田町議会議長として大半の請負契約に関係しているに拘らず、当時は何らの異議ものべなかつたのみならず、その後においても本件の請負契約以外には何らの異議ものべておらず、又その他の一般町民からも指名競争入札に付したこと及びこれに基く請負契約の締結、工事の結果等については何らの非難も異議もなかつたのである。

以上のとおり、昭和三〇年一二月二六日に本件契約条例は改正の議決及び公布がなされ、右改正条例にもとづいて本件入札が行われたのである。

三、(請負契約承認の町議会の招集告示なしとの原告ら主張に対し)

本件請負契約の町議会は昭和三三年一一月六日現在議員二五名中病気欠席の木内甚五郎を除く二四名が出席し、二一名の賛成を以て議決承認されたものであるが、その町議会の招集の告示は同月三日されている。すなわち昭和三三年一一月三日役場使丁三名が所定の掲示場所に議会招集の文書を貼付してその告示をした。更に町議会議員全員に対しては別に招集告示の写を送付した。これに基き同述の如く病気欠席の一名を除く二四名の議員が出席し、決議に加わつたものである。

役場庁舎の建設は多年の懸案であり、原告らが反対していたことは町長としても知悉していたのであるから、議員全員に通知すれば原告らと意思を通ずる議員から原告らに知れわたることは当然考えられたし、又それらの議員が議会においても反対意思を表明することは予め考えられたので、その議員に通告しながら町民に秘匿しておくということは意味をなさない。又手続上の違背があれば原告らから直ちに攻撃される立場にあつたのだから、告示をしないということは考えられない。

これを要するに、昭和三三年一一月三日町の公告式条例に則り本件議会の招集につきその旨を記載した文書を掲示場所に貼付して告示したことはまちがいない。

四、(被告会社は善意の当事者である)

仮りに山田町契約条例等に何らかの瑕疵があつたとしても、被告会社はその瑕疵を全く知らず善意に本件の請負契約を締結したものであつて、その契約には何ら違法はない。したがつて本件の請負契約は適法・有効である。

五、(本件訴訟における原告らの真のねらいについて)

原告らは本件訴訟により自己のわがままを押し通そうとして町の利益を犠牲にしようとしているものである。

すなわち、山田町は昭和二九年八月一日の町村合併による発足に先立ち、その建設計画において「役場庁舎はとりあえず八都村役場を充てるが、発足後新町の機構整備後速かに新庁舎につき協議決定する」ということになつていたので、その建設計画に基き山田町新庁舎位置決定審議会が設置され、右審議会は昭和二九年七月一七日「新庁舎の位置は人口密度・地勢・交通等を勘案し、山田町のほぼ中央付近において決定する」と決定し、右審議会の決定はその後山田町議会において承認された。

ところが原告らは右決定の趣旨に賛成せず、その後その決定の具体化に対して妨害を加えたが、昭和三三年二月に至り役場庁舎位置決定は県知事に一任することになり、町長鎌形精及び議会議長田寿郎の名を以て県知事柴田等に対し庁舎位置決定を依頼し、右依頼に基いて同年三月一九日知事から山田町役場の位置は、

香取郡山田町 千葉交通株式会社仲仁良停留所附近

を最も適当と認定する旨通知してきた。そこで右知事の認定通知にもとづき山田町はその庁舎の位置を山田町仁良三一〇番地の一と決定し、ここに庁舎を建設することになつたものである。

したがつて右役場庁舎は合併前からの建設計画に基く既定方針の実行であり、その位置も山田町のほぼ中央であり、町議会の議決にもとづき町から県知事に依頼して決定されたもので、公正妥当な位置である。

しかるに原告らは合併直後便宜上一時使用した旧八都村役場が自己の居住地に近く自分らに便利であつたものが新庁舎の位置では少し遠くなるという一事だけでわがまま千万にも理不尽にその建設にあらゆる妨害を加えているのである。特に原告田の如きは自己が山田町助役として条例の改正に関与していながら、その条例の改正を否認し又は無効と称しているが、万一その条例改正が無効であつてその後に指名競争入札によつてなされた十数件の請負契約が無効であるとされれば、今後山田町は収拾しえない大混乱に陥るのは火をみるよりも明らかである。

と述べた。

(立証省略)

理由

一、被告町長に対する訴の適否について

被告町長は、原告らがその無効確認を求めている本件契約の当事者ではないことを理由に被告町長に対する本件訴を不適法であると主張するので考えてみるに、なるほど被告町長の右主張と同旨の見解もないではないが、請求の趣旨によれば本件契約を被告会社と締結したのは被告町を代表する被告町長であるとされているところ、およそ地方自治法二四三条の二第一項に掲げられている地方公共団体の各職員のなした行為が、当該職員の全く関与しない訴訟において無効とされ又は取り消される等の結果を招来する解釈をとることは相当でないのみならず(当該職員はその結果会計法上、公務員法上乃至自治法上の法的責任を追求されるに至る場合もありうる。)、いわゆる納税者訴訟にはその半面において地方公共団体の所定の職員のなした或る行為の違法を攻撃する抗告訴訟的な面もあるのであるから、これを実質的にとらえればその行為をなした当該職員に対する関係においても訴の利益はあり、したがつて被告適格ありと解するのが相当である。

二、しかして原告らが何れも被告町の住民であること、被告山田町長鎌形精が同町役場庁舎建設工事の請負につき昭和三三年一一月四日同役場府馬出張所においてこれを被告会社外訴外四会社の指名競争入札に付したところ、被告会社が落札したので被告町長は右会社と落札価格六五八万円で仮契約を結び、同月六日町議会臨時会においてこれに対する同意の議決を経、同月中に被告山田町と被告会社との間に右工事請負契約を締結したこと、これに対し右契約締結の仕方に違法があると主張する原告らが同年一一月一四日被告町の監査委員に対し自治法二四三条の二第一項により監査を行いかつ右契約の履行禁止の措置を講ずべきことを請求したところ、右監査委員は同年一二月二日付の書面を以て原告らに対し請求に係る違法事実がない旨の通知をしたことは当事者間に争いがない。

三、ところで被告らは右契約は昭和三〇年一二月二六日の町議会において改正されかつ同日公布された山田町契約条例(以下「改正条例」という。)三条一項七号に基いて指名競争入札に付されたものであると主張するのに対し、原告らは右条例改正の議決乃至その公布のあつたことを争うので考えてみる。成立に争いのない甲第四号証、公文書であることによりその成立を認めうる乙第七、第八号証、第二一号証、第二二号証の二、第二三号証の二、証人木内好雄の証言によれば、被告町が町村合併により発足した当時から存する被告町の契約条例は、千葉県から示されたいわゆる模範条例をそのまま町の条例としたものであつたが、その後高金額の工事の請負契約を締結するに際し一般競争入札の方法を用いると、資産、信用の少い者までが競争入札に加わり、落札して工事を請け負うことが可能となり、そうなると工事を完成するにたえない危険があるので、そのような場合には「契約の性質又は目的により一般競争入札に付することが不利なとき又は一般競争を許さないとき」に該当するとして指名競争入札に付するのがよいということになり、当時の山田町長鏑木茂は被告ら主張のような条例改正を提案したところ、昭和三〇年一二月二六日被告町の町議会は出席議員の全員一致を以て右議決を可決したことを認めることができる。

しかして仮りに乙第一六号証の成立が認められるとすれば右改正条例はその議決のあつた昭和三〇年一二月二六日に即日公布されたことが認められる如くであるが、しかしながら成立に争いのない甲第五号証(成立に争いのない乙第八号証の一も同じもの)、第七号証中別件証人武田四郎の証言記載部分、前示乙第二二号証の二並びに右乙第一六号証が前示監査請求のなされた昭和三三年一一月一四日より五ケ月余を経た昭和三四年四月一五日の本件第三回準備手続期日においてようやく提出されるに至つたという弁論の全趣旨を綜合すれば、昭和三四年四月一五日頃まで被告町側としては右乙第一六号証を発見・提出しえなかつたということになり(この間右監査請求、原告らからに対する本件訴に伴う請負契約効力停止仮処分申請及び口頭弁論によるその審理・判決、二回に亘る本訴の準備手続がなされたことは成立に争いのない乙第二〇号証及び本件記録上明らかである。)、これらのいきさつからすれば右乙第一六号証が昭和三〇年一二月二六日に作成されたものであるか否かについては多大の疑問があり、前示乙第二二、第二三号証の各二中改正条例が公布されたとの趣旨の部分は右各証拠に照らしてたやすく措信しがたく、又証人木内好雄の証言中右書証が仲々発見することのできなかつた事情についての説明の部分もそれ自体人をして充分首肯せしめるに足るものとは未だ言えず、又被告町において町長はじめ役場吏員、町議会議員及び町民の間で右改正条例が効力を発生したもののように取り扱つてきた事実は後記認定のとおりであるが、右事実を以て改正条例公布の事実を推認することも相当ではない。

結局昭和三〇年一二月二六日に改正条例の公布がなされたのか否かについてはついに何れとも認定しえず、したがつて右事実があつたとの被告ら主張については充分な証拠がないものと言わなければならない。そうだとすると右改正条例が本件入札当時その効力を生じていたものとして取り扱うことは本件訴訟においてはできないものと言うことになる。

四、そうすると本件入札時たる昭和三三年一一月四日当時において有効に存在していた条例は改正前の契約条例であつたことになるが、ここで自治法二四三条一項本文にいう「競争入札」の意味について考えてみる。これを単に文理的によめば一般競争入札と指名競争入札の両者を含む如くであるが、しかしこれと同様の場合を国の契約について規定した会計法二九条本文にいう「競争」が一般競争のみを指すものであることはその但書との対照上明らかである(更に又予算決算及び会計令七九条乃至八六条の二に単に「競争」とあるのが一般競争を指すものであることも規定上明らかであるのみならず、同令八五条一号、八六条、八六条の二本文においては自治法と同じ「競争入札」という文言を一般競争入札の意味に用いている。)。しかして各法令において同様の場合に同一乃至類似の用語を用いているときには特段の事由のない限りこれを同様に解釈するのが法的安定性乃至法秩序の統一上相当であるとすべきところ、国の財政処理を規定した会計法二九条と地方の財政処理を規定した地方自治法二四三条との間に同様の用語を別異に解すべき実質的根拠は別段見出しがたい。よつて自治法二四三条一項にいう「競争入札」も一般競争入札のことを言うものと解するのが相当である。しかして本件改正前の山田町契約条例において、比較的少額の請負その他一定の場合については指名競争入札を許し、更に少額の請負その他一定の場合については随意契約を許し、それに当らないものは全て原則たる一般競争入札に付さなければならないものとしたこと(前示甲第四号証)も、右解釈にそうものである。けだし自治法二四三条一項本文にいう「競争入札」が「指名競争入札」をも含むものとすれば、地方公共団体は請負その他同条項所定の行為については何らの制限なく全て一般競争入札か指名競争入札に付することができ、あえて指名競争入札に付しうる場合を条例において限定する必要は通常ないからである。

そうだとすると本件入札において、自治法二四三条一項但書乃至右条項に基く被告町契約条例三条・四条に定める事由があつたか否かが問題となるが、その何れの事由も存しなかつたとの原告ら主張に対しては被告らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そうすると本件指名入札は自治法二四三条一項及びそれに基く条例二条乃至四条に一応違反することになるが、ここで「法令に違反してその事務を処理した地方公共団体の行為は、これを無効とする」と規定した自治法二条一四項、一五項の意味について考えてみるに、右規定がおよそいかなる法令の条項に違反した行為でも全て無効乃至取り消しうべきものとした意味であると解するのは困難である。けだしいかなる軽微な法令違反があつても後日全てその効力が覆滅せられるべきものとすれば、つねに住民多数に利害関係をもつ地方公共団体の行為の性質上、それによつて生ずる不必要な混乱・損害は甚大なものとなる場合が少くないからである。したがつて、地方公共団体の或る行為が或る法条に違反する場合、当該規定の重要性、当該行為と同種の行為に関する従来からのいきさつ、それに対する関係者その他一般住民の態度を綜合勘案したうえ、その効力を決すべきものとするのが相当である。

そこでこれを本件についてみるに、成立に争いのない乙第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一乃至六、第一七号証、前示乙第二二、第二三号証の各二、公文書であることにより成立を認めうる乙第二一号証、被告会社代表者本人の供述によれば、被告町においては前記条例改正案が町議会で可決された後である昭和三一年一月の山倉中学校校舎増築工事以来本件請負契約に対する承認議決をなした町議会において同時に承認議決をなした昭和三三年一〇月の第一山倉小学校講堂建設工事に至るまで約三年間、十数回の大工事の請負契約締結に当つて、例外なく契約条例の改正条項に該当するものとして五、六の有力な請負業者の指名競争入札に付してきたこと、そのうち昭和三一年九月の山倉小学校の給食堂・炊事場の新設工事以降の十二回の大工事請負契約は、自治法二四三条一項但書が「………又は議会の同意を得たときは、この限りでない」とあつた文言から「………又は条例で定める場合に該当するときは、この限りでない」という現行文言どおり改正された後に締結されたのであるが、原告らその他の一般町民からも町議会の議員たちからも指名競争入札に付すること及びその指名入札の選定について何らの異議が出なかつたこと、指名競争入札に付して請負契約を締結した各工事の結果についても何らの非難もなかつたこと、本件工事の請負契約締結に当つても従前の取扱と何ら変るところがなく請負予定金額が高額であるため一般競争入札に付する方が却つて被告町のため不利益と認めて指名競争入札に付したところ被告会社が落札して契約を締結するに至つたものであること、又本件入札において被告町側が特に他の適格希望者を排除し一部の建築業者と結託して落札に至らしめたという事実はないことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はなく、又前示改正条例が少くとも昭和三〇年一二月二六日の町議会において全員一致を以て可決されていることは前示認定のとおりである。しかして自治法二四三条一項が前示の如く会計法二九条と同様、原則として一般競争入札に付すべきことを要求した趣旨は、契約締結の門戸を一般に開放し、以て地方公共団体のいわゆる理事者側と一部の業者とが情実を以て公の契約の成否等を左右しいわゆる政商等が発生することを防止せんとしたものであつて、それ自体趣旨としては甚だ民主的なものであつたが、しかしそうすれば資力・信用の乏しい弱少業者も落札することが可能となり、却つて地方公共団体の不利益を生ずる場合も少くなく、実際問題としては必ずしも一般競争入札の方が地方公共団体の利益になるとは限らないということも、前掲各証拠から認めることができる。

以上全ての事情を綜合すれば、本件入札が自治法二四三条一項及びそれに基く条例二条乃至四条に違反したことの違法は、当該行為を無効にするものでも又取り消しうべきものとするものでもないと言わなければならない。

よつてこの点についての原告らの主張は理由がない。

五、次に被告らは本件請負契約に同意の議決を与えた臨時町議会の招集告示は適法に行われた旨主張し、原告らはこれを争うので考えてみるに、自治法一〇一条二項によれば議会の「招集は、開会の日前、………町村にあつては三日までにこれを告示しなければならない。但し急施を要する場合は、この限りでない」と、又同法一〇二条四項によれば「臨時会に付議すべき事件は、普通地方公共団体の長が予めこれを告示しなければならない」とそれぞれ規定され、又被告町公告式条例によれば被告町の告示はその旨を記載した書面を各所定の掲示場所に貼付してなす旨規定されているとの被告ら主張に対しては原告らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

しかして本件請負契約締結について昭和三三年一一月六日における被告町の臨時町議会が同意の議決をしたことは前示のとおり争いがなく、成立に争いのない甲第一、第二号証、前示乙第二一号証、第二三号証の二によれば、昭和三三年一一月六日の右臨時町議会には議員二五名中病気欠席届を提出した一名を除いて二四名が出席し、本件請負契約の承認の懸案にはそのうち三名が反対し二一名賛成してこれを可決したこと、右反対者三名を含めた全議員に対し招集の通知として議案の記載のある招集告示の写が予め送られていたことを認めることができる。そうだとすると、被告町長は町議会の開催を町民一般に秘密にしようとする意図を有しなかつたものと言わなければならない。けだし弁論の全趣旨によれば被告町の町役場庁舎をどこに建設するかは数年来町民の大問題となつていたことを認めうるから、議員中誰が本件工事に反対するかは予め被告町長に分つていたはずであり、反対の意向を有する議員に招集の通知をすればたちまち町民一般にそのことが知れわたつてしまうことは容易に考えられることだからである。しかして右町長が議会の招集を秘密にする意図を有していなかつた事実と前示乙第二一号証、第二二、第二三号証の各二、公文書であることによりその成立を認めうる同第二二号証の三、右乙第二二、第二三号証の各二によりその成立を認めうる乙第一一号証の二、三を綜合すれば、昭和三三年一一月三日前記議会招集の告示は山田町公告式条例により所要のことを記載した紙片を各掲示場に貼付してなされたことを認めることができる。前示甲第七号証中別件証人高木邦蔵・同多田清七の証言記載部分を以てしても右認定をくつがえすことはできない。

したがつてこの点についての原告らの主張も亦理由がない。

六、以上のとおりであるから、本件請負契約は契約締結の相手方である被告阿部建設株式会社の善意悪意を問題とするまでもなく、無効とすべきではないから、原告らの請求は棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎 田中恒朗 遠藤誠)

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